第1回 東三河サイエンスカフェ 記録
2007年10月4日 開催


あなたの身近にあるトンデモ科学
〜理科離れは「つくられる」?〜
寺田 安孝 先生
司会挨拶
司会より、非常時の対応等諸注意、本カフェのすすめ方説明、
ゲストスピーカーの紹介を行ないました。
【18:30開始】
基調スピーチ
寺田先生は、パワーポイントを使用しながら、
25分ほどのお話しをしてくださいました。
以下は、同スピーチの内容をまとめたものです。
スライド資料(図表等)は、先生よりご提供いただいたものです。
これらスライドの著作権は、寺田先生にあります。
当日のスライド資料は、このほかにもたくさんありましたが、
その一部のみ掲載しております。
挨拶。
「あなたの身近にあるトンデモ科学」という題名で、
普段、高校生を相手に授業をしていて感じていることから、
話題を提供してみたいと思います。
今日は、三つの話をします。
まず、授業をしていて感じるのですが、理科ぎらい、というのは、
どうもつくられた話しなのではないか、ということ。
二つ目は、世にある科学のなかには本当のホンモノと、
どうもそうではないもの、トンデモないものがあるようだ、ということ。
最後は、みなさんへの問いかけです。
最近、科学を勉強していますか。
ここにいらっしゃるみなさんは、されていると思いますが、
一般的にはどうでしょうか、という三点です。
子どもたちは理科が大好きです。
地域の小学生たちを対象に、実験教室などを行なっても、
みんな嬉々として取り組んでいます。
また、高校生も理科が大好きです。
TIMSS という国際調査などでも、日本はトップレベルの成績です。
ところが、同じ TIMSS の調査でも、「理科が好きですか?」、
「理科の勉強をがんばってますか?」、
「将来のために、理科は必要ですか?」、
という質問項目では、惨憺たる数字、最低レベルの数字になってしまいます。
これって、矛盾していると思いませんか。
このあたりを風間晴子さんという先生が、みごとに看破されています。
曰く、「理科の勉強は難しくって、面白くなくって、
だから退屈で、好きでもないし、大切だとも思わない。
けれども、今はただ入試のためにやるしかない!
だから、ましてや将来、科学を仕事になどしたくもない!」と。
これが高校生の本音なのかなぁ、と思ってしまいます。
あんなに好きな理科がなぜこうなってしまうのでしょうか。
また、理科の成績そのものについても、
マスコミなどで、下がった、下がった、といわれています。
はたして、本当に下がっているのでしょうか。
確かに、日本は6位でした。
ただ、6位といいますが、実は4位との間に、統計的に有意な差はありません。
さらにいえば、上位国とは、圧倒的に教育への予算配分がちがいます。
また、英国・米国は日本より下位にいますが、
ノーベル賞など「成果」はあがっています。
ともすれば、悪い面を強調する方が、話題になりやすい、ということがあります。
なんとなく科学が怖い、というイメージが刷り込まれている面もあるでしょう。
最近の若者は、という言い方もうけますね。
そうした意味で、理科嫌いというのも、
どうもマスコミ等によってつくられたもののように思えます。
ここで、あえて申し上げます。
むしろ理科嫌いなのは、大人の方なのではないでしょうか。
このグラフは、文部科学省の白書にあるものですが、
大人の方が科学技術に対する興味・関心の数値が低いのです。
この大人の理科嫌いはとても深刻です。
こちらのグラフは、子どもの学力と大人の理解度との相関を示したものです。
他国に比べ、日本の子どもの学力は高いのですが、
大人の理解度はすごく低いのです。
では、こうしたことの原因は何でしょうか。
どうも「食べず嫌い」といえそうです。
こちらのグラフを見てください。
大人の科学技術に対する興味・関心が、この30年、
どんどん下がってきていることがわかります。
どうやら、好き嫌い以前に、興味・関心すらもっていないということのようです。
興味・関心もない、知らない、という状況では、
好きも嫌いもない、好きになれるはずがない、ということです。
そこで、そうした食べず嫌いをなくそうと、
わたしの授業では、最初に今日のニュースというのを見せています。
ホットな話題を提供しています。
今日もカフェということで、今朝の話題を用意してきました。
60歳の女性が妊娠した、というものです。
こういうものを見せると、生徒たちは、「えー」といって驚きます。
「食いつき」はとてもよいわけです。
このニュースの資料をよく読んでいくと、詳しいことが分かってきます。
第三者からの受精卵提供による妊娠のようです。
そこで、この受精卵提供の話題をきっかけに、
ヒトの生殖の話しにはいっていけば、生徒の興味はとても強くなり、
結果、理解も深まります。
さらに、こうした話し、こうした勉強をしていくことで、
ホンモノの科学というものが見えてきます。
さきほどの女性の場合もそうですが、胚移植という方法があります。
この図は、すぐれた肉牛をつくるための胚移植の方法を示したものです。
また、胚移植をする際に、ほかの動物の細胞を混ぜることによって、
いわゆる「キメラ」という不思議な動物をつくることができます。
このキメラですが、ホンモノはワクワクします。
これは黒と白のキメラのアホロートル、
こちらは馬とシマウマのキメラです。
こういうものを見ていると、ワクワクして、
もっともっと知りたいと思いますよね。
そこで、さらにインターネットで調べていると、
こういうものがでてきました。
これ、人魚です。
ヒトと魚のキメラです。
………、実は、猿と魚を合体処理させたものです。
工作でつくったものです。
こういうトンデモないものもあります。
みなさん、ホンモノとトンデモを見分けられますか。
それでは、これはどうでしょうか。
クワガタの雌雄同体です。
左半分が雄で右半分が雌です。
こちらは、ヒトの雌雄同体です。
半陰陽とよばれるものです。
この写真は、19世紀にいた人らしいのですが、
資料が十分でなく真偽のほどはわかりません。
こうしたものを見てくると、性とはなんだろうか、
という気持ちが芽生えてきます。
ホンモノを知っているからこそ、身についてくる力というものがあります。
これも有名な実験データですが、脳の細胞レベルで雌雄のちがいがある、
ということがわかってきました。
こちらは性同一性障害の人の脳細胞です。
その人の外見ではなく、心の性の方の脳細胞が確認されました。
こうしたことを理解することによって、
性同一性障害の人、
そうしたことをカミングアウトした人に対する偏見がなくなり、
対応の仕方が変わってくると思います。
すなわち、こうしたホンモノの知識が社会の成熟には必要であろうと思います。
「知ってる」からこそ、その意味や価値がわかる、
ということが分かっていただけたかと思います。
これは、遺伝子操作によってできたショウジョウバエです。
これは、触角が手になっています。
こちらは胸がふたつになっています。
これをやっていくと千手観音になりますね。
これは、毛が全部眼になります。
これ、全部ホンモノですよ。
こちらは多指症というものです。
遺伝子のちょっとした「イタズラ」でこのようになります。
こうした知識があれば、意味のない差別意識など、なくなるのではないでしょうか。
先ほどの人魚の例ほどではないのですが、
身近なところにも、トンデモがあります。
豆腐のお話しをしましょう。
街頭で話しを聞きますと、
みなさん「組換え遺伝子を使用した食べ物は食べない」といいます。
さらに「それはなぜですか」と尋ねると、「変な遺伝子がうつるから」と答えます。
遺伝子は、バイ菌ですか。
困ったことですね。
ただ、みなさん、ご存じですか。
人が食べる食品は、遺伝子組換えをした原料を使っている場合、
そのことを表示しないといけません。
しかし、家畜が食べる飼料は表示する必要がありません。
すでに、そうした飼料の9割は、遺伝子組換えのものです。
したがって、間接的に、みなさん口にしているわけです。
また、食品であっても、原料の5%以下なら表示する必要がありません。
日本の法律はそうなっています。
実は、世界で最も「あまい」方です。
さらに、不使用と表示されていたものの、
実は7割で使用されていた、という調査もあります。
やはり、そうした状況に対しても、科学が分かるということが大切だと思います。
さて、みなさん、最近、科学を勉強していますか。
科学というと、学校の理科というイメージがありませんか。
そして、はるかかなたにある、違う世界のものと思っていませんか。
そして、なんだか、マイナスのもの、と感じていませんか。
やはり、科学を学び続けることは、大人の義務といってよいと思います。
なぜなら、科学の成果をつかうのは、我々大人だからです。
また、科学研究費・政策をきめるのも、我々大人だからです。
だから、世の中がうまくいくかどうか、
生きるも死ぬも、きっと我々大人しだいでしょう。
例えば、この写真の研究施設、
うしろの山と見比べても、その大きさがわかると思いますが、
この建設費用や毎年々々の経費をどう考えるか、ということです。
本当に必要なものかどうか、我々ひとり一人が判断できることが大切です。
そうした意味での科学的素養、
いいかえれば、科学的リテラシー、簡単にいえば、
科学が「分かる」、「語れる」、「判断できる」ということが大事になります。
また、そのための学び方が必要になります。
そして、それが身につけば、きっと楽しくなります。
わたしは、普段高校生の相手をしています。
彼らは、将来の大人、市民です。
その彼らが、DNAを全然知らないのです。
DNAが二重らせんである、ということをご存じですか。
ところが、これを学ぶのは、ほんの一部の生徒だけです。
理系で、生物を選択しないと授業にでてきません。
ちなみに、わたしの勤務校では、全体の5%にすぎません。
95%はDNAを十分に学ばずに高校を卒業します。
さらに、卒業後のことも考えないといけませんね。
卒業後にそうしたことを知りたい、学びたい、と思ったらどうでしょうか。
そうした、
大人が学び続けられる仕組みを用意することが大事なのではないでしょうか。
そうした観点から、
サイエンス・コミュニケーターといった役割が注目されるようになってきています。
わたしもそうした役割を担いたいと思っていますし、
ここにいらっしゃるみなさんも可能かもしれません。
でも、あまりむずかしく考えずに、楽しみながら学びましょう、
ということをまとめにしておきたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。
コーヒーブレイク
ここで、参加者全員に飲み物とお菓子のサービスをしました。
寺田先生が、コーヒーブレイクのサービス時間用に、
おまけの実験を用意してくださいました。
以下、先生の説明の概説です。

フィルムケースと、磁石、アルミホイル、単3乾電池、押しピンを用意しました。
ひとり1個ずつ、お持ちください。
まず、磁石をアルミホイルでつつみます。
次に、フィルムケースの底に、細長く切り、
コの字型に折り曲げたアルミホイルを、押しピンでとめます。
磁石の上に、電池のマイナス側をつけて立て、
プラス極に押しピンがちょうどのるように、
フィルムケースをかぶせます。
フィルムケースのアルミホイルが磁石とちょうどよい距離になると、
さあ、どうなるでしょうか。
語らい
基調スピーチとフィルムケース・モーターの実験をうけて、
35分ほど、参加者一同の語らい(議論)の時間をもちました。
以下は、語らいで出された意見などをまとめたものです。
畜産における品種改良や、先生の話しにあった遺伝子組換えなどは、
コストの問題なんでしょうか。
遺伝子組換えによって、使用する農薬を減らせる、という効果もあります。
品種改良は、遺伝子組換えと違って、こわいものとはいわれないですよね。
ただ、このふたつは、本質的には同じことではないのかな、という気がします。
遺伝子組換えであっても、人にとって特に有害なものでなければ、
品種改良と差はないのではないでしょうか。
例えば、BSE(牛海綿状脳症:いわゆる「狂牛病」)などは、
プリオンという蛋白質が原因といわれています。
遺伝子組換えについても、
それと同様に異常な蛋白質を生み出すようなことがあると、
とても危険といえるでしょう。
経済面を含めて考えれば、多少の危険、不安があっても、
安ければ、という見方もできなくはないでしょう。
ただ、こうした不安や、危険について、
何もしらずに、その危険にさらされる、
子どもたちが、知らないままに、
受け入れてしまう、被害をこうむってしまう、
というのはかんべんしてほしいと思います。
そうしたことを防ぐために、
望ましいものを選ぶことができるようになるために、
本質がどうなっているのかを理解できることが大事で、
そのためには、やはり科学を学ぶことが大事であると思います。
学ぶということでいえば、
先生の話しにあったDNAの勉強をするのが、たった5%ということでしたが、
大学ではもっとすごいことがおこっていまして、
90年代以降、大学で理科をまったく学ばない学生さんがでてきました。
それ以前は、制度上、一定単位数の自然科学を学ぶことが必須とされ、
当然、理科の講義もあったのですが、
いわゆる「大綱化」という制度改訂後は、
自然科学の単位なし、というのも許されるようになってきました。
その結果、最後に理科の勉強をしたのは、
高校の1年生、という大学卒業生が少なからず世の中にでてきたわけです。
これはとてもおそろしいことだと思います。
それでは、実際、理科や科学を学ぼうと思ったらどうしたらよいのでしょうか。
理科・科学を系統的に学ぶのは、どうも高校が最後の機会のようです。
したがって、それ以上の人が学ぶには、
地域の科学館などで、生涯学習として、
そうした機会を設ける必要があろうと思います。
確かにお金のかかることですし、人も必要ですが、
そうした社会環境をつくっていく、
文化をつくっていく時期にきていると思います。
特に、次の時代の人のために、科学を学ぶ、学べる環境をつくる、
という考え方が大事だと思います。
このサイエンスカフェもそうした土壌づくりのひとつなのではないでしょうか。
大英博物館などでも、こうした活動が根付いていて、
気軽に参加できる雰囲気で行なわれていました。
科学雑誌などでも、日本では少なくなりましたが、
欧米では、キオスクなどで、科学雑誌が普通に売られています。
そうした文化ができてきてほしいですね。
DNAチップという研究があります。
小さなガラス片で、DNAのチェックができるというものです。
これに衛生機器メーカーが注目して、
自社の製品にとりつけ、
毎朝チェックしたデータを自動的に医療センターに送信して、
体調管理に利用しよう、というようなことを考えているようです。
こうした話しを聞くと、やはり、科学を知らないとまずい、と思いますよね。
それは、ネットワークでデータを送るとなると、
そちらの方での問題がいろいろでてきそうですね。
安全・安心とのトレードオフのことですが、
究極の個人情報がネットワーク上を流れるということと、
健康面のメリットと、総合的に考える必要がありますね。
今日の話しの流れでいえば、
そうしたメリット・デメリットをきちんと判断できるよう、
継続的に新しいことも勉強していく必要がありそうです。
いわゆるインターネットなどの情報収集手段を利用することと、
うまくタイアップして、動機づけをうまくやってあげて、
科学の世界にさそいこむような工夫がほしいです。
子どもたちにマジックなどをしてみせると、
とても興味深そうに見てくれます。
同じように、理科の実験なども、
やはりおもしろいのだろうと思います。
遺伝子組換えだけが理由ではないのでしょうが、
市場にでてくる農作物の種類が少なくなったように思います。
同じように、情報教育とタイアップした理科教育においても、
ぜひ「心」の面についてもとりあげられるような教育になってほしいと思います。
ご指摘のとおりで、農業にも市場原理がはいってきて、
長期的なスパンでみたとき、
歪んでいるといわざるをえない状況になっているようです。
司会挨拶
司会より、アンケート記入の依頼、同回収、閉会の挨拶を行ないました。
【19:58終了】
付録
フィルムケース・モーターの詳しい資料をみつけました。
市江寛さん他:超簡単モーター クルクルくるりん(YPC(横浜物理サークル)別館・「すた」のページ)