第3回 東三河サイエンスカフェ 記録
2007年11月1日 開催


「博士の愛した数式」より
−整数論の話題から−
武藤 利昌 先生
司会挨拶
司会より、非常時の対応等諸注意、本カフェのすすめ方説明、
ゲストスピーカーの紹介を行ないました。
なお、開始前には、
前回・前々回カフェの模様のスライド・ショーを紹介しました。
【18:30開始】
基調スピーチ
武藤先生は、パワーポイントを使用しながら、
20分ほどのお話しをしてくださいました。
以下は、同スピーチの内容をまとめたものです。
スライド資料(図表等)は、先生よりご提供いただいたものです。
これらスライドの著作権は、武藤先生にあります。
当日のスライド資料は、このほかにもたくさんありましたが、
その一部のみ掲載しております。
挨拶。
「博士の愛した数式」より、ということで、
まず、この本を読まれた方、ちょっと手をあげていただけますか。
それでは、映画をご覧になった方は。
知らない方の方が多いようですね。
いえ、大丈夫です。
この本の内容をきっかけにして、この話しのなかで出てくる数学の話しをします。
この話しのあらすじは、ここにあげたように、
「交通事故のため、47才以降は、80分しか記憶がもたない老数学者『博士』と、
家政婦の『私』、その息子の『√』の心の交流を、
日常描写とともにつづった物語」というものです。
作家の後日談にもあるように、さほどむずかしい数学の話しではなく、
一般の人にもとっつきやすいものです。
博士は、数をとおして会話をしていきます。
また、今日は、中日の優勝がかかっていて、
気がかりな方もいらっしゃると思いますが、この博士は、阪神が好きで、
阪神の選手の背番号を題材に話しをしたりします。
この他にも、数学者を描いた映画が多くありますが、
そうしたところで描かれる数学者というのは、だいたい、
奇人、変人、不器用、でも、純粋、というように描かれています。
そして、その人としての純粋さは、
すなわち、数学の純粋さにつながっているようです。
映画の方は、早春の信州で撮られたそうです。
小説にはない言葉なのですが、映画にでてくる言葉に、
「数学は農業に似ている」というのがあります。
数学者の岡潔さんの言葉ですが、日々、土を耕して、
それでも、実りの保証がなくて、
それと同じように、数学も日々取り組んで、
成果の保証がない、それでも、日々取り組んでいく、
ということなのかぁ、と思います。
まず、完全数の話しをしましょう。
6が最初の完全数です。
6の約数は、1、2、3、6、の四つですね。
このうち、6自身を除いた残り、1、2、3、を足し合わせると、……、
6になるんですね。
不思議ですね。
こういう数を完全数といいます。
6の次の完全数が28です。
これは、阪神の江夏投手の背番号、として話しにはでてきます。
この完全数が発見されたとき、
これは神のお告げの数であるといわれたんですね。
6は、神がこの世界をつくった日数ですね。
月曜から土曜まででこの世界をつくって、日曜は休息日です。
28は、月の満ち欠けがちょうど一回りする日数ですね。
完全数の定義は、このようになります。
n の自分自身を除く約数の和を s(n) とおくとき、
s(n) = n を満たす自然数 n を完全数という。
少し数学的になってきましたが、このように定義されます。
6や28は、ここに示したように、この定義を満たしています。
非常に美しい、ですね。
こうして見てくると、当然、ほかにはないのかな、と思いますね。
ほかの完全数を、手当たり次第にさがしていってもよいのですが、
雲をつかむような話しですので、数学では、
なんとかうまく見つける方法を、となっていくわけです。
そして、偶数の完全数は、
ここに示したような性質、
2n-1×(2n - 1) の形に限る、
という性質をもっていることがわかってきたんですね。
ここで、 2n - 1 の形の数をメルセンヌ数といいます。
メルセンヌ数のうち、
素数になっているものをメルセンヌ素数といいます。
完全数の場合は、必ずメルセンヌ素数となります。
そして、この形に限る、ということですから、
完全数を探すのがとても簡単になります。
n = 2 のときが、6になります。
28は n = 3 のときです。
みなさんにお配りした資料には、
このメルセンヌ素数と完全数の一覧(下記付録参照)が示してあります。
今から、自分で新しい完全数を探していこうとしても、
まず無理です。
コンピュータを使って、
とてつもなく大きな完全数まで調べられています。
実は、奇数の完全数というのはまだ見つかっていないんです。
それでは、奇数の完全数はないのか、というと、
それはわからないんですね。
ただ、10の300乗、
1のうしろに0が300個つく数までには奇数の完全数はない、
ということは証明されています。
数学では、ない、ということをいうのはむずかしいんですね。
ある、は簡単です。
それを現に示せば、ほらあった、ということになりますから。
完全数の性質としては、
完全数は連続する自然数の和として書ける、
というのがあります。
例えば、28は1から7の和ですね。
実は、これはさきほどのメルセンヌ素数を用いた性質を、
書きかえただけなんですね。
この式のように、1から 2n - 1 までの和になります。
ガウスという人が、少年の頃、1から10までの足し算は、
こういう式になる、
それを一般化すると、先ほどの式になる、
ということを考えたんですね。
それから、友愛数というのが出てきます。
映画のなかでは、220と284が出てきます。
220の約数を考えると、この図のように、284になって、
220ではありませんから、あぁ、完全数ではないなぁ、
で終わってしまいそうなんですが、
そこで、284を考えると、同じように完全数ではないのですが、
約数の和は、220になるんですね。
お互いに相思相愛の数、友愛数、というんですね。
友愛数の話題としては、さきほどの220と284のほかに、
ここにあげたような数が友愛数です。
この例のように、友愛数はともに偶数か、ともに奇数なんですね。
偶数と奇数の組合せの友愛数は見つかっていません。
ただ、先ほど言いましたように、見つかっていないからといって、
偶数と奇数の友愛数が、ない、ということではありません。
存在しないということではないのですね。
誰かが、ない、ということの証明をしない限り、ない、
とはいえないんですね。
ふたつ目の友愛数の話題としては、
友愛数の2数の小さい方が、10の14乗以下、
という友愛数はすべて見つかっています。
今現在知られている友愛数というのは1千万組以上で、
例えば、このWWWページ(下記付録参照)には、そのすべてが示されています。
今知られている一番大きい友愛数は、
この図のような式で表される数ふたつで、
24073桁になります。
だから、とても書ききれない数ですね。
ご静聴ありがとうございました。
コーヒーブレイク
ここで、参加者全員に飲み物とお菓子のサービスをしました。
語らい
基調スピーチをうけて、
60分ほど、参加者一同の語らい(議論)の時間をもちました。
以下は、語らいで出された意見などをまとめたものです。
今日のような話しが、数学の面白さを知って、
数学に興味をもつきっかけになれば、
生徒さんにもいいなぁと思いました。
映画を見て、数学の面白さを思い出しました。
学生の頃、コンピュータを使って、
πのマクローリン展開をごりごり計算したりしました。
カフェ参加も3回目ですが、こういう企画に参加していると、
数学にしても理科にしても、その知識をもっていることで、
日々の生活において、
理解できる、納得できることがあるんだなぁ、と感じています。
大学で数学を勉強しているのですが、
今日は気分を変えてみようかと、参加しました。
完全数のお話しを聞いて、
むかし、素数を探したことを思い出しました。
たしかに、算数、数学の問題を解いていて、
それが解けたとき、得心できたとき、
そごくすっきりした気分になったことを覚えています。
自分の数学は中学で終わっているなぁ、というのが実感です。
高校の教員をしていますが、学問は美しい、おもしろい、
ということを子どもたちに伝えたいと思っています。
ところが、授業でこういう話しをすると、
反対に生徒から、解き方を教えて、といわれることがあります。
そのあたりのバランスをうまくとっていかないといけないな、
と考えながら、お話しを聞いていました。
ていねいにお話しをしていただいて、すごくすっきりした気分です。
やはり、わかる、ということは大事なんだなぁと思います。
フェルマーの定理の話しも聞けたらと思います。
見つかっているうちの一番大きな友愛数は、
2万桁ということでしたが、2万桁の数というと、
例えば、書いていったら、宇宙のはてまでいってしまうのかな、
と思いました。
最近、数学に興味をもって、放送大学で勉強しています。
仕事上、数学用語の奇妙さに困ることがあります。
顧客に数学的な根拠を説明する際、虚数や虚関数などといいますと、
これは何もないということですかと、けげんそうに問われることがあります。
三角関数というのも、形としての三角形を連想させてしますので、
「輪」関数などの名称の方がよくわかりそうですね。
(−)×(−)=(+)、(□)×0=0というのが、
教訓的でおもしろいと思います。
数字は冷たく感じられますが、ある時、
とても感情を感じられるときがあります。
理性と情緒の両面をもった数字、数学というのが、
ものすごくおもしろいと思っています。
パンフレットにあったオイラーの公式、
映画にも出てきて興味があります。
ぜひ、その話しを聞きたいと思います。
数学は、科学の女王といわれているようです。
先日、NHKスペシャルでポアンカレ予想の番組をやっていましたが、
そのなかでも、宇宙の話しが出てきました。
数学の世界を、宇宙、小宇宙にたとえることもしばしばありますし、
そうしたあたりがおもしろいと思います。
巷間いわれることに、学問における性差、というのがありますが、
そうしたことというのは、本当にあることなのでしょうか。
性に由来する能力差などではなく、社会の問題だろうと思います。
今日も数学の研究をされている、という方がお見えになっていますが、
社会の仕組み、システムが、
性差に対する対応ができているかどうかにすぎないと思います。
これまでの人生、受験番号がなぜか素数なんですね。
高校受験が479、大学が683でした。
素数であることもそうですが、それに気づくことがすごいですね。
社交数というのがあります。
さきほどの完全数、友愛数と似てますが、
より大きな概念と思ってください。
ですから、完全数も友愛数も社交数の一種です。
完全数と友愛数のときと同じように約数を用いて計算をします。
その約数の計算が1回でもとの数になるのが、完全数です。
2回行なうと、もとの数になるのが、友愛数です。
2回ですから、行って帰ってで、2数になって、友愛数です。
とすると、3回、4回、と約数の計算をすると、
もとの数にもどってくる、という数があるはず、となるわけです。
ところが、3回、周期3でもどってくる社交数は見つかってません。
周期4は、百組以上、たくさん見つかってます。
周期5は、この一組だけです。
周期6、8、9とあって、周期28が一組見つかっています。
それより大きいのはまだ見つかってません。
婚約数というのもあります。
定義は、友愛数と似ていますが、約数のうち、1を除きます。
1、シングル、を除くから、友愛から婚約になるのかもしれません。
この例、48と75は、婚約数です。
これまで見つかった婚約数は、すべて奇数と偶数の組です。
奇数同士、偶数同士、すなわち、同性の婚約数は見つかっていません。
さきほど、素数の話しも出ていましたので、
素数のお話しも少ししてみたいと思います。
素数とは、1とその数自身以外に約数がない数のことです。
素数は無限にあるということは、簡単に証明できます。
配付資料には、エラトステネスのふるい、
という素数の見つけ方を紹介してあります。
素数をみつけるよりも、素数でないものを取り除いていく、
という方法です。
双子素数というのがあります。
ちょうど2ちがうふたつの素数を双子素数といいます。
双子素数は、この表にあげたように、たくさんあります。
たくさんありますので、無限にあるか、というと、
これはまだ証明されていません。
また、これまでに見つかっている一番大きな双子素数は、
この2数です。
なんと51779桁になります。
こちらはルース=アーロン・ペアというものです。
ポメランスという先生がいまして、
ベーブルースの通算本塁打記録714本の714が、
最初の7つの素数の積であることに気づきました。
一般の方にすると、「だから、なんだ」と思われるでしょう。
数学者というのは、こういうのを、おもしろい、
と思うんですね。
そうすると、その先生の近くにいた学生が、
714と715は、それぞれの素因子の和に等しい、
ということを発見しました。
これも、興味のない人には、
「だから、なんだ」というものなんですが、
おもしろい、ということで、
こういう2数をルース=アーロン・ペアと名付けられました。
このルース=アーロン・ペアは、
20000までに26組あります。
そして、素数と同じように、
数が大きくなるにつれ、このペアの個数も少なく、
薄くなっていきます。
ちょうど、ビッグバンで拡張していく宇宙においても、
その外縁の方では星が薄くなっていくのに似ている、
とも言われます。
こちらは、オイラーの公式です。
オイラーというのは、ものすごい数学者で、
特に、美しい数式を数多く発見した数学者です。
この「美しい」という意味ですが、
なんでもそうなんだろうと思いますが、
美しいと気づかないと、美しいと思わないと、
美しさに気づかないものなんだろうと思います。
さて、オイラーの公式です。
これを証明しようとしますと、配付資料にありますように、
マクローリン展開をして、ああして、こうして、となります。
あえて、対比的に見ていただくために、
資料にそうした数学の証明を添付させていただきました。
ここでは、
この公式の美しさを味わっていただきたいと思います。
すなわち、まず、「e」、ネイピア数といいますが、
これは超越数というものです。
また、「π」は円周率、これも超越数です。
そして、「i」は虚数、1と0は整数ですね。
このようにまったく異質なものが、生まれも育ちもまったくちがうものが、
ひとつになって、ひとつの公式にまとまっているんですね。
これを、美しい、と思うわけですね。
映画の博士にとって、これが一番美しいんですね。
まとめになりますが、
映画のなかで博士はこう言います。
「実生活の役に立たないからこそ、数学の秩序は美しいのだ。」
そして、
「素数の性質が明らかになったとしても、
生活が便利になる訳でも、お金が儲かるわけでもない。」
「結果的に数学の発見が現実に応用される場合は、
いくらでもあるだろう。
しかし、それは数学の目的ではない。
真実を見いだすことのみが目的なのだ。」
と、語ります。
また、
「真実の直線はどこにあるか。
それはここにしかない。」
と、博士は自分の胸に当てます。
さらに、
「君が料理を作っている姿が好きなんだ。」
と、言います。
これは、数学の公式の「美しさ」、
式がもつ内容(真実)の「美しさ」であり、
式の形の「美しさ」を言うのと同じように言っているんだろうと思います。
数学とは、普遍的な真理を追究する学問です。
すなわち、数学的真理は普遍であって、
時代や場所をあらゆる意味で超越します。
数学は、人間の存在とは無関係に実在する、
と感じることさえあります。
数学オリンピックの問題で、
文章、国語の問題のように思えるものがありますが、
あれはいったいどういうものなのでしょうか。
数式も一種の言語ですので、
いわば数式への翻訳をもとめることによって、
その数学的な能力をテストしようとしているのかもしれません。
E = mc2 という式が好きなんですが、先生はいかがですか。
現実の事象を映しだした式ですね。
現象を理解し、
その複雑な現象があのひとつの式に表されていることを理解して、
その式の美しさを感じられるのはすばらしいと思います。
司会挨拶
司会より、アンケート記入の依頼、同回収、閉会の挨拶を行ないました。
【20:02終了】
付録
本カフェにでてきた、
いくつかの話題に関する詳しい資料へのリンクをあげておきます。
いずれも、ほかにたくさん資料がありました。
ここでは、それぞれひとつだけにしておきます。
- 完全数:
上記のとおり、配布資料に使用されていたものの、もとのWWWページです。
メルセンヌ数(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
- 友愛数:
上記のとおり、スライドからリンクされていたWWWページです。
Known Alicable Pairs(Jan Munch Pedersen)