第8回 東三河サイエンスカフェ 記録
2008年2月21日 開催


おもしろいインド式数学
−最近、流行のインド式数学の極意にせまる−
松坂 知洋 先生
司会挨拶
司会より、非常時の対応等諸注意、本カフェのすすめ方説明、
ゲストスピーカーの紹介を行ないました。
【18:30開始】
基調スピーチ
松坂先生は、配布資料をもとに、参加者が計算に挑むクイズ形式の演習を含め、
30分ほどのお話しをしてくださいました。
以下は、同スピーチの内容をまとめたものです。
挨拶
最近、テレビなどでよく見られるようになってきたインド式数学ですが、
きちんと書籍で調べようと本屋さんなどに行きますと、
数学の専門書のコーナーではなく、一般・社会人むけのコーナーに、
本が並んでいるんですね。
何冊か購入して読んでみますと、ああなるほどこういう説明をしているのか、
というのがわかりました。
今日は、テレビなどでよく行なわれているのとは少し違った、
みなさんが中学校や高校で習った数学の方法、因数分解などを用いながら、
インド式数学についてお話ししてみたいと思います。
それでは、さっそくですが、
お手元お配りした資料の1枚目、一番有名なパターンですが、
これを、30秒で、やってみてください。
それでは、10秒前、少し見てフライングしてもかまいませんよ。
…。
はい、始めてください。
……。
やめ。
とても、できないですよね。
それでは、ひとつ目の問題を例に、こちらのホワイトボードで説明しましょう。
問題は34×36です。
普通に筆算でやればできますけれど、とても30秒では5題もできないですね。
ところが、ある方法を用いますと、
答えの上の桁ふたつと、下の桁ふたつが、一瞬にしてわかってしまいます。
問題の上の桁は、どちらも3ですね。
そこで、一方に1加えたものと、もとの数を掛け合わせたものが、
上の桁ふたつになります。
この場合では、3×4=12ですから、
上の桁ふたつは12となります。
上の桁ふたつの欄には、1、2とはいります。
そして、後ろの数字、4と6ですが、これを掛け合わせて、
4×6=24で、
下の桁ふたつの欄は、2、4となります。
これで、1224という答えができました。
たったこれだけです。
2番の問題も、22×28ですから、
上のふた桁は、2×3で06、ということで、
上はひと桁だけで、6となります。
下は、2×8=16で、あわせて、616という答えになります。
なぜ、こんな簡単にできてしまうのか、ということですが、
こちらの図を使って説明していきます。
最初の問題の34×36というのは、
この青い方の長方形の面積を求めることになります。
そこで、この右上の幅6の長方形を、
横むきにたおして、左下にもってきますと、
もとの高さがこちらの幅である30と同じですから、
ちょうどそろって、大きな長方形ができます。
残った右下の長方形は、ちょっと横においておきます。
そうしますと、動かした長方形の幅が6でしたから、
このくっつけた大きな長方形の高さは、
もともとの30+4と、+6で、40となります。
さきほどの計算方法で「+1する」というのは、
この30から40になった部分なんですね。
さきほど1加えたところは、上の桁、十の位ですから、
1加えるということは、10加えることになります。
これで、面積を求めますと、30×40=1200と、
こちらの小さな長方形、4×6=24で、
1200+24で、1224となります。
さきほど、あちらのホワイトボードの方で求めたのと同じになりましたね。
このように、十の位が同じで、
一の位が足して10になるふたつの数のかけ算が、
簡単にできることになります。
この長方形の面積を使った説明は、
テレビの番組などでよくやられているものです。
そこで、ここからは、高校の数学の先生らしい説明をしてみます。
この問題のようなかけ算は、
(10a+x)(10a+y)、と書くことができます。
今の問題の場合、十の位が同じ、3、ですから、
この式で、a=3、ということになります。
また、一の位が足して10になるということですから、
x+y=10、となります。
今の問題では、xが4で、yが6です。
次に、この式を展開します。
かけ算の展開というのは、
今、こちらに書き込んだように、順にかけ算をしていくことです。
そうしますと、
10a・10a+10ay+10ax+xy、となります。
ここで、前のみっつとも10aがありますから、
10a(10a+x+y)+xy、となりますね。
ここで、x+y=10、一の位をたすと10でしたから、
10a(10a+10)+xy、となります。
さらに、10をくくりだしますと、
100a(a+1)+xy、となります。
ここに、(a+1)というのがでてきます。
これが、計算でやった、1加える、というのですね。
aが3で、1加えて4にしたところです。
そして、100a(a+1)、ですから、
aと(a+1)をかけて、
それに100がかけてありますから、桁、位でいいますと、
さきほど計算でやりましたように、上の桁ふたつの方になるわけですね。
ちょうど、このよっつの箱、桁の上ふたつの方になります。
ですから、最初の問題の場合、3×4=12、で、
上の箱ふたつには、1と2がはいったわけです。
そして、残ったxyの方は、下の箱、桁ふたつにはいります。
最初の問題では、4×6=24で、
2、4がはいったわけです。
これで、1224という答えがもとまります。
このように、長方形の面積で説明したことが、
式を因数分解し、展開していくことでも説明できるわけです。
このようなパターンと解き方を分かってしまいますと、
問題を簡単に解くことができるようになります。
それでは、資料の次のページ、裏側になりますが、そこにある問題、
復習になりますが、やってみましょう。
どうぞ、ご準備ください。
今度は、きっと30秒でできると思います。
それでは、スタート。
……、20秒、……。
はい、やめて。
こんどはできましたでしょう。
答え合わせをしますと、上から、
1221、216、9024、
7225、4209、となります。
どうですか、みなさん、正解でしたか。
これは、最も「速い」パターンなんですね。
それで、いろいろなところでよく紹介されているものです。
それでは、次のパターン2の方にいってみましょう。
先ほどのより少しむずかしいパターンなんですが、やってみましょう。
準備してください。
できなくっても大丈夫ですから、リラックスしてやってください。
15秒前、…。
よーい、はじめ。
……、10秒、……、20秒、……、30秒。
速いひとは、結構できちゃったかもしれませんね。
これも、ホワイトボードで説明しましょう。
最初の問題は、15×18ですから、このように計算することができます。
まず、十の位は、
10と5と8を足して、
十が23個あることになりますので、230、
これに、5×8=40、を足して、270が答えになります。
では、どうしてこれで答えが求まるのかを、
こちらの図形を用いて説明しましょう。
15×18ですから、右上のこの長方形を左下にもってきます。
幅が8でしたから、この新しい縦長の長方形の縦の長さは、
10+5+8で23,横は10ですから、
その面積は、23×10で230ですね。
それと、残ったこの長方形が5×8で40ですから、
合わせて270となります。
ほかの問題も同じで、2番の16×12では、
(10+6+2)×10+6×2=180+12=192、
とできて、この方法でやれば速くできますよ、ということです。
まとめますと、10とその横についているふたつの数を足して10倍し、
一の位のかけ算をたす、という方法です。
それでは、資料の次のページにある問題をやってみましょう。
10秒前、…、はじめ。
……、10秒、……、20秒、……、30秒。
できましたか。
いくらか暗算に慣れていないと、10+3+4で17、
それに10をかけて170、
といった計算がしんどいかもしれません。
先生、10+5+8というのは、
15+8でもかまわないのではないですか。
はい、どちらでもかまいません。
説明では、縦横10の正方形と、
5と8の長方形という、
三つの面積を求める、という説明でしたが、
10×15の長方形に、
10×8の長方形をくっつけたと考えれば、
15+8に10をかけるというとらえ方でも結構です。
計算のしやすい方でやっていけばよいと思います。
それでは、今の問題の答え合わせをしておきましょう。
1番から順に、182、306、361、
255、256、です。
最後のパターンは、100に近い2数のかけ算というものです。
これは時間の関係もありますので、30秒はやめにしておきましょう。
ホワイトボードで説明します。
最初の問題、98×94です。
98は100に2足りませんから、
98の横に−2と書きます。
同じく、94は、横に−6と書いておきます。
このようないくつ足りないというのを、補数といいます。
ここで、どちらでもいいのですが、ナナメの2数を足し算します。
元の数と、相手の補数を足す、ということです。
左上の98と右下の−6を足しますと、92になります。
これが、答えの上2桁になります。
下2桁は、右側の2数をかけ算します。
−2と−6をかけますと、12です。
ということで、答えは、9212となります。
もうひとつやってみましょう。
資料の2番、97×92です。
97ですから、横に−3と書きます。
92は、−8です。
97+(−8)=89、(−3)×(−8)=24、で、
答えは8924です。
今の2問は、100に足りない場合でしたが、
100を超えている場合は、
横に書く補数のところがプラスになってきます。
4番の問題をやってみます。
103×107ですから、
横に書かれるのは、+3と+7になります。
103と相手の補数、+7、を足しますと、
110になります。
これが上の桁になります。
下の二桁は3×7=21ですから、答えは11021です。
みなさん、どうしてこれで答えが求まるのか、
すぐには納得いかないですよね。
これも、数学っぽく説明していきましょう。
もとのかけ算は、(100−x)(100−y)と書けます。
97×92だったら、xは3で、
yは8ということになります。
先ほどと同じように、この式を展開していきます。
100・100−100y−100x+xy、
−xと−yのかけ算ですから、+xyとなります。
前の方は、100でくくれますから、
100(100−x−y)+xy、とできます。
xとyの順番をいれかえておきました。
ここで、(100−x)というのは、かけ算をする元の数ですね。
97×92でしたら、xが3で、
100−3の97ですね。
そして、((100−x)−y)ですから、
97から、y、今は8ですので、
97−8、をもとめて、
それに100をかけているわけですから、
上の二桁が97−8で89になったわけです。
そして、下の二桁は、残ったxyの部分になりますから、
3×8=24で、あわせて、8924ともとまるわけです。
これがいわばタネあかし、ということになります。
ただし、一方が100より大きくて、
もう一方が100より小さい、という2数の場合は、
ちょっと複雑になりますので、ここではやめておきましょう。
この方法は、2数がともに100より少し大きいか、
100より少し小さい場合に用いてください。
こういうパターンがたくさんあるわけです。
実際にそこでやっていることというのは、ここで式を展開したように、
とくに何か目新しいことをやっているわけではなくて、
展開していけば、たんなる計算にすぎないわけです。
ただ、この場面、このパターンで、
こういうやり方をしようという発想をもたないだけなんですね。
逆にいえば、インド式のすごいところは、こういう何でもない式の展開、
計算のやり方のなかに、たくさんのパターンを見いだして、
それを子どもたちに徹底して教えていることなんですね。
そうした計算を速くできるように鍛えていることです。
単純な計算でも速くできると、たくさんの計算ができるわけです。
結果として、計算を速くできる、ということになるわけですね。
いまやIT大国といわれているインドですけれど、
こういうパターンをたくさん教えることで、
式に対する発想も豊かになっている部分がありそうな感じをもちました。
日本でも小学校の算数教育でこういう取組みが、
いくらかあってもよいのではないのかなと思います。
以上で、基調スピーチとさせていただきます。
ご静聴ありがとうございました。
コーヒーブレイク
ここで、参加者全員に飲み物とお菓子のサービスをしました。
コーヒーサービスの間に、少し別の話題を提供しましょう。
これは、ある小学校1年生の一週間の時間割です。
算数の時間は、3コマですから、一週間に45×3で135分なんですね。
一方、こちらはインドのある公立小学校の1年生の時間割なんですが、
算数の時間が毎日あって、35分1コマで、週に7コマありますから、
一週間に245分あります。
ほとんど倍ですね。
これだけの教育をやっていますと、IT大国といわれて成長していくでしょうし、
我が国が、ゆとり教育という名のもと、
科学技術立国としての基盤が危うくなってきているのもわかりますね。
このインドの小学校は、
決してインターナショナルスクールとか特別な学校ではなく、
ごく普通の公立学校です。
日本のこの学校も普通の市立の小学校です。
これは本当にショックでしたね。
それともうひとつショックをうけたことは、
このインドの方の時間割を見ますと、
英語、ヒンディー語、マラーティー語、現地語、
と、小学校1年生で4カ国語勉強しているんですね。
公用語とされる言語が22もありますし、
方言までいれますと、数え切れないほどです。
対して、日本の方では、国語、国語、国語、…、
と一応毎日、日本語だけをやっています。
いわゆるグローバルな時代に、この状況というのは、ショックでした。
さらに、インドには放課という時間がないようです。
例えば、午前中は4時限ですが、
この間に放課の時間というのはありません。
授業と授業の間は、次の先生が来たら、はい、交代、始めます、
ということだそうです。
それはシステムですから功罪両面あるでしょうが、
ただ詰め込みがよい、ということではなくて、
国としてしっかりやっているな、教育にとりくんでいるな、という印象はありますね。
語らい
基調スピーチをうけて、
40分ほど、参加者一同の語らい(議論)の時間をもちました。
以下は、語らいで出された意見などをまとめたものです。
語らいは、インドと日本の時間割についての意見から始まりました。
日本の時間割を見ますと、
私たちが学んだ理科とか社会がないのですが、どうなっているのですか。
今の小学校1・2年生には、生活科というのがありまして、
内容は以前の理科と社会を合わせたものです。
理科はまったくやらなくなったのですか。
いえ、1・2年生については、
従来、理科と社会でやっていた範囲の多くを、生活科という形でまとめて、
語弊があるかもしれませんが、効率的におこなっているということです。
考え方としては、生活科というのはよい点もあると思います。
まあ、あまり名前にはこだわらずに、中身に注意すべきでしょう。
なにより、時間が少ないのが問題ですね。
計算の速さに関連して、暗算の速さということもあると思います。
そこで、そろばんの達人は暗算もすごく速いですが、
そろばんというのは、こういう計算の技法と関連してどうなんでしょうか。
そろばんを習う人は減っています。
また、学校では、こうした計算を行なう「技術」というのは、九九しかやりません。
インド式のような計算を速く行なうための細かな技術というのは、やっていません。
今日説明しましたように、やっている計算そのものは難しいものでもありませんし、
技術的に何かすぐれたもの、というわけでもありません。
ただ、こういう技術を、全員に対してきちんと教育していく、
そういう伝統がある、という点はすばらしいなと思います。
インドでは、九九がふた桁まであるという話しを聞いたことがあるのですが。
たしかに、ふた桁まであるようです。
ただ、日本のように暗唱して、覚える、という方法ではありません。
ドイツなどでもそうですが、かけ算の表があって、
5×5なら、表の5行5列めのところをみて、
そこに書いてある25を用いて計算するんですね。
それを繰り返しているうちに、5×5=25というのが頭にはいってくる、
やがて、表がなくても、暗算でできるようになる、という方法のようです。
そうした意味も含めて、日本の九九とそろばんというのは、
すばらしい文化だと思います。
それ故、反対に、現状の算数・数学の教育は、ゆゆしき状況だなと思っています。
そろばん塾と同じように、公文式というのがありますが。
基本的な考え方が、違ったものだと思います。
といいますか、公文式というのはひとつの「学習方法」なので、
ここでのお話しとはちょっと違うものと思います。
小学2年生の孫が「−1は0より小さい」と言っていて、驚いたことがあります。
本当にわかっているのだろうか、という疑問があります。
概念レベルとして…。
温度、気温をあつかうと、学校でもでてきそうです。
生活科では、「四季のくらし」という単元がありますので、
このあたりでも、冬には十分氷点下になりますから、
学校でやっていてもおかしくないですね。
ただ、概念レベルとして、といわれますと、むずかしいですが。
今日はかけ算のお話しだったのですが、
インド式数学には足し算や引き算、割り算はありますか。
全部あります。
ただ、足し算、引き算には、かけ算のようなおどろくようなものはないですね。
日本の方法で十分という感じです。
また、割り算もあります。
ただ、ややこしくて、時間内におさまらないので、今日はとりあげませんでした。
さらに言えば、わたしは、割り算については、
日本の学校で教えているやり方の方がわかりやすいと思います。
今日のお話しにあったように、インド式のかけ算では、
いろいろなパターンがあって、それぞれに解き方があるわけですが、
日本のかけ算の場合は、筆算ひとつですよね。
かえって、日本の方がわかりやすいのではありませんか。
インド式にも筆算がありまして、
例えば、29×34なら、こういう具合に解いていきます。
答えの欄をみっつにわけて、
上から、6、8+27、36、として、
6、35、36、となって、
答えは、986となります。
みっつに分けた欄は、下から一の位、十の位、百の位、となっているのですね。
百の位は、もとの十の位をかけあわせたものですから、
2×3=6、で6です。
下のふたつも同じです。
このやり方だと、桁上がりの部分がすっきりしますので、楽なんですね。
ただ、もとの数が4桁になってきますと、
すごくややこしくなって、日本式の筆算の方が簡単です。
司会挨拶
司会より、アンケート記入の依頼、同回収、閉会の挨拶を行ないました。
【19:58終了】
付録
学習指導要領に関する詳しい資料へのリンクをあげておきます。
ほかにもたくさん資料がありました。
ここでは、ひとつだけにしておきます。
新しい学習指導要領(文部科学省)